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「記念日でも何でもないのに、サボテンをくれた男がいたわ。知ってる?サボテンには超能力があって話すのよ!私がそんな話を信じてるって、彼はいつも笑ってたのに…」
サヨナラ、淋しい時はコイツと話すといいよ、ですって!!
ひどいわ。いい男ぶっちゃって。
「インドではね、別れる時、プレゼントを贈る習慣があるんだ」
ですト。ここはインドじゃないだろーが。
考えてみたら、いつも別れは冬の記憶と重なって、彼女はそれ以降、一人で長い長い夜をすごしてきたのだった。
いつのまにか、そんな日々にもすっかり慣れて、思い出しもしなかったけど。
そうか、それで私はクリスマスが嫌いだったんだ…。
彼女がちょっとセンチメンタルな思いにかられながら、カップから顔をあげると−目の前では、後輩の男がニコニコとサンドイッチをパクついていた。
彼女は、思わずひややかな目でそいつをにらんだ。
彼は、げと、そんな視線に気づかばこそ、
「なーんだ、なんだ。先輩、まだまだ甘いな。ぼくなんてもっとひどい仕打ち、山のようにありますよ。もう、いっそ男に走ろうかと本気で思いましたもん。クリスマスなんて死んじまえ〜っ!?オレもスクルージみたいになってやるーって決意したくらいですよ」
でも、知ってます?クリスマス・キャロルって、ちゃあんとメデタシメデタシで終るって。
孤独で愛も何も信じない主人公のスクルージは改心して、真人間になるし。
「幸せは、いつかちゃんと訪れるんですよ。ぼくにも、先輩にも」
あんまり確信にみちた表情で言うので、彼女は、瞬間、カッとなった。
「私にも、ですって?どうして、そんな無責任なことが言えるわけ!?」
「…無責任じゃないですよ」
「どこが…!?」

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